私自身が大学院生ということもあるのですが、最近「大学院教育」に関する研究を色々読んだので、あらためて「大学院生活」について考えることが多いです。
今回は色々調べているときに見つけた「大学院生のメンタルヘルス」という文献の内容についてご紹介したいと思います。大学院生のメンタルヘルスについてはどんなことが言われているのでしょうか?
紹介するのは以下の文献です。
石橋泰(1998)大学院生のメンタルヘルス.大学と学生,400:43-49
1998年なので少し古いかもしれませんね。著者の石橋泰さんは東京大学学生相談所の助手という立場から、こちらの文献を書かれたようです。
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こちらの文献では、学生相談をしているときによく出てくる大学院生の悩みをまとめています。この文献によると、その悩みは大きく3つに分類されるようです。
(1)大学院不適応の例
大学院生活に適応できないといったことから相談にくるケースのようです。具体的には以下のケースが挙げられています。
・あまりよく考えずに大学院に進学してしまったケース
・大学院に進学したものの行き詰ってしまうケース(プライドの高さと自信のなさ)
・他大学からの進学してきたケース
以下の記述はなるほどと思いますね。もちろん、なんでも指導教員頼みにはできないのですが。
大学院生は自分の研究やアルバイトが忙しく人の面倒までみる余裕がなく、学生同士が支えあう風土が弱い研究室もある。学生に任せるだけでなく、教官の側もいい意味で学生同士が競いあいつつ助けあうといった風土を作るよう配慮する必要が増しているように思われる。
(2)多様性の増大
大学院生自体の多様化によって相談内容も多岐にわたってきているようです。
・大学院生の多様化により、相談内容も多岐にわたっている
例)夫婦関係の問題、子育て、親の介護、経済的な問題、など。
学内に保育所を置くなどといった対応が求められる
たしかに「研究だけ」ではなく、院生の場合は、色々な生活との関連で学んでいきます。これはこれまでの青年期の学校とは異なる部分といえそうですね。
(3)研究室に閉ざされがちな対人関係
大学院という狭い世界で生活することによって起こる悩みのケースですね。
・指導教員との関係がより密接になる
→これによるメリットも大きい(学生の問題に素早く気づくことができる)
・一方で、研究室という狭い空間で起こる問題も色々ある
例)恋愛の問題、指導教員との関係悪化など
たしかに大学院の研究室というのは狭い空間です。これによるメリットも当然あるとは思いますが、デメリットやリスクもしっかり自覚しておく必要がありますよね。
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著者の石橋さんが最後に書いていることはたしかにと思うことが多いです。
青年期は、自分の力を頼み突っ走ることで大きな業績を上げることのできる時代であった。成人期になると、自分を取り巻くさまざまな要素により注意を払う必要がでてくる。自分の力で成し遂げたと思っていることも、いかに多くのことに助けられていたかということもみえてくるだろう。
成人期以降の課題は、自分と世界のさまざまな要素がいかに結びついてるのかを再度見出し、こうした関係を意識的に実現していくことと言えるだろう。
言われてみればそうかもしれません。
大学院で学ぶことというのは、「自分だけ」で押しきれないなにかがあるように思います。それはもちろん研究を進める上で他者が必要というのはありますし、家族や友達恋人などのとの関係もあるでしょう。もちろん、これは青年期でも同じなのですが、成人期になることで、よりこれらの要素が密接に関わってくるといえるでしょう。
じゃあどうすればいいのか?
自分の研究室でできることもたくさんあるのかなと思います。学生同士で声を掛け合うとか、逆に研究室の人間関係だけに閉じないとか、いろいろあるでしょう。これまで僕自身も、「大学院の人たちがつながる場」をつくってきましたが、こういうことを行った背景には自分自身も狭い人間関係に縛られないようにするということを考えていたのかもしれません。
出来ることはいろいろあると思います。もちろんやれることは、教員、学生、職員、大学以外の人など、立場によってさまざまだと思いますが。これから少しずつこのblogでも大学院のことを書いていこうかなと思います。
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私も色々とコラボレーションさせていただいている「いきいき研究室増産プロジェクト」のメンバーが1/24にフォーラムをひらくようです。このテーマは「教員と学生のコミュニケーション再考」ということです。まさに今回のブログ記事と関連するようなテーマですね。研究室マネジメントについても、色々と情報交換しながら、新しくしていく時期なのかなと思います。
【参加受付中】いきいき研究室増産プロジェクトフォーラム2011?研究室での教員-学生間コミュニケーション再考?
http://bit.ly/fjNNLh
先日大学院の知人である讃井さんが大学院組織について興味深い記事を書いていました。こちらもあわせてお読みいただけると面白いと思います。
大学院という組織 〜元組織コンサルが感じた5つの組織的な特徴から〜
http://d.hatena.ne.jp/sanui0822/20101226
博士のシェアハウスの実践も、いろいろな人がつどう場になるといいですね。http://chizaisupport.jimdo.com/
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tate-labの関連記事
・院生同士がつながる場づくりとして実施しているHappy Hour(ハッピーアワー)の実践
Happy Hour!
http://web.mac.com/makimuramaho/happyhour/Welcome.html
・中原ゼミで工夫しているゼミの方法
こちらの実践は来年の3月に京都大学で発表を行います。大学院教育について色々調べていたのも、この発表に関連してです。
今年ゼミに導入した「研究室メンバーの内省を促す」3つの仕組み – tate-lab – 教育・学習について研究する院生のblog
https://www.tate-lab.net/mt/2010/05/post-177.html
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