先日酒井穣さんの「日本で最も人材を育成する会社」のテキストの書評をしたので、その流れで「はじめての課長の教科書」の書評を書きたいと思います。こちらの本の方が出版されたのは全然早いですよね。

「課長」といわれても、院生の僕にはさっぱり馴染みがないし、大丈夫かなと思っていたんですが、読んでみると「これは僕の興味関心に近い!」と思ってうれしかったです(笑)

簡単に本書について説明するならば、この本は、

「課長、すなわち、中間管理職」

に向けて書かれた本です。

「経営者向けでも」、「末端社員向け」でもありません。
また、中間管理職といっても、「部長」や「係長」向けでもありません。

これまであまり重要と思われてこなかった「中間管理職向け」の本であり、かつ、中間管理職の中でも筆者が一番重要であると考えられる「課長」に向けた本なのです。

僕的に驚きだったのですが、欧米型のマネジメント理論では、中間管理職はむしろ「いらない」ものとして捉えられているそうです。

しかし、日本はむしろこれまで「経営者」「中間管理職」「末端社員」が助けあうような三元論を基礎にしてきたということを述べており、それをベースに考えていこうと書かれています。

日本では、トップ・ダウンでもボトム・アップでもない「ミドル・アップダウン」という中間管理職のダイナミックな役割を強調する新しいコンセプトを世界に先駆けて完成していることを例に、日本型のマネジメントのあり方を考えていこうぜ!ということが指摘されています。

このように「課長」の重要性を指摘しながら、その「課長」に何が必要なのか?どのようにその力を身につけるべきなのか?について書かれたのが本書なのです。

僕は「課長の大きな役割」という部分にぐっときました。

課長は世代間で異なる価値観がぶつかる場所に位置しているポジションなのであり、そうした異なる価値観をそれぞれに理解するばかりでなく、異なる価値観の「通訳」であることが期待されています。

なるほど!たしかに、僕がこれまでいいなと思う組織には、こういう「課長的役割」にたけている人が多いなとふと思いました。

この他にも、

1.課長のところで経営情報と現場情報は交差し
2.社内の情報は課長に向かって集まり
3.課長は現場情報と経営情報をバランスよく持っている

という話もかなり腑に落ちました。

「課長の元気な企業は強い」という話が本に書かれてしましたが、これはたしかになあととても納得してしまいました。

最後に、本に紹介されている課長の8つの基本スキルを紹介したいと思います。細かくはぜひ本書を読んでほしいなと思います。

これだけみると、例えば「やっぱり部下をしからなくちゃ!」など誤解してしまう可能性もあると思いますので(笑)。叱り方にも工夫が必要です。本書には「怒るときは人前ではなく、だれもいない場所で」等、しっかりケースにわけて説明がしてありますので、ぜひ実践するときには本書を読んでからやってほしいなと思います。

1.部下を守り安心させる
2.部下をほめ方向性を明確に伝える
3.部下を叱り変化をうながす
4.現場を観察し次を予測する
5.ストレスを適度な状態に管理する
6.部下をコーチングし答えを引き出す
7.楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
8.オフサイト・ミーティングでチームの結束を高める

僕は最近「ナナメの関係」の意味をもう一度考え直しているのですが、この本にはたくさんのヒントがありました。

自分はコミュニティを作ったりすることに興味があるのですが、そのときに目指しているスキルは、社長や経営者としてのスキルではなく、なんとなく「課長的スキル」なんじゃないかと思いました。

企業だけではなく、いろいろなコミュニティに応用できる話だと思います。
「研究室」もそうだよなと思います。

指導教員の意図を把握しながら、所属している学生のストレスの状況などを目配りしつつ、うまくどちらもの情報を行き来するようにする。

僕のいまの立ち位置は、課長に近い部分も多くあると思いますし、いろいろこれをベースに実践していきたいなと思いました。

組織運営について悩んでいる人にもおすすめの本じゃないかなと思います。

自分の組織の問題となっているのは、もしかすると「トップ」でも「ボトム」でもないかもしれません。

▼以前書いた酒井さんの本に関する書評

[書評]学べる組織になるためのノウハウたくさん! – 「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト (酒井穣さん)
https://www.tate-lab.net/mt/2010/06/sakai-jinzai.html