授業でも研修でもいいのですが、何かを学ぶ機会があったとします。しかし、それに参加したものの、そこで学んだ知識を仕事などで活用できなかったとします。その場合の原因はどこにあるでしょうか?

ひとつは「授業や研修のやり方」と考えることができます。「教え方が悪い」ので、学習者は学んだ成果を活かせないということです。

もうひとつは「学習者(受講生)」を原因とすることもできるでしょう。教え方はよいのに、しっかり学んでいないから、学んだ成果を活かせないということです。

教育に関する分野で研究していると、色々な立場はあれど結果的には先ほど示した二つの視点が多いのかなと思います。研究キーワードでいうと「学習転移(transfer)」に関するものだと思います。ざっくりいえば「ある場所で学んだことを他の場所でも活かす」ということについて考える領域といえると思います。

ただ、先日経営学に近い分野での「研修」における「学習転移」の研究群を読んだときにこれ以外のアプローチがあるのだということに気がつき、それがとても新鮮でした。それは以下のような考え方です。

学んだ成果を活かせないのは、「教え方」や「学習者」の問題だけでなく、その知識を活用するような場が「職場にないからだ」と考えるアプローチです。

つまり、どんなによい教え方をして、どんなによく学んでも、それを活用する先がその知識やスキルを受け入れるような環境でなくては、知識を活用しませんよということです。

言われてみれば当たり前かもしれませんが、個人的にはなるほどと思う視点でした。

少し話は飛躍するかもしれませんが、この視点は今後の大学教育を考える上でも重要になるのではないかと思いました。

大学教育の「教え方」や、大学生の「学び」がいかに促進されようとも、その先の「職場」がそこで得た知識を活用できるような場でなければ、活かすことができないのではないかということです。

「新しい知識やスキルを持った人材を育成してほしい」ということは、裏を返せば、「そうした人材を受け入れる」という覚悟が必要になります。その覚悟がなければ、教え方も学びも活きてこないのではないでしょうか。

一番よいのは、知識を活用する先が「新たな知識やスキルの重要性を理解」しており、それに適した「教授法」がとられ、学習者の「深い学び」が促されることでしょう。なかなか難しいことではありますが、どれかひとつだけ取り出して問題化してもなかなか先に進まないような気がしています。

これらの3つがうまくまわるようなサイクルはいかなるものかについて考えていきたいなと思っています。