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先日「イノベーションの理由 – 資源動員の創造的正当化」という本を読み直しました。この本が面白いのは、タイトルに書いたような「新しいものが必要だけど、前例がないからお金や人を出せない」という矛盾をどうやって超えるのかということについて探究している点かなと思います。
普通はイノベーションというと「どうやって新しい発明をするか」を考えたくなるわけですが、本書は「その発明にどのように資源を動員してもらうか」に焦点化した研究になります。
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例えば、この本の中に、こんな文章があります。(p.19-20)
イノベーションの実現には、不確実性故に事前には成功の見通しがない中で、しかし他者の資源を動員しなくてはならない、という矛盾がつきまとい、資源動員への壁が立ちはだかる。
だが、革新的だが不確実性の高いアイデアからイノベーションを実現することを目指す者は、この壁を乗り越えなければならない。この壁を乗り越えた者だけがイノベーションを実現し、「想定外の成功」にたどり着くことができる。
面白いですよね。イノベーションというのは本質的に「不確実」なわけです。でも「不確実だから資源動員をするのは難しい」となるわけですよね。その矛盾を乗り越えないと実現につながらないわけです。
ではこうした矛盾をどう乗り越えるのか?
不確実なものに対して資源動員をするための「まっとうな理由」をどうつくりあげるのか?
ということについて「創造的正当化」という概念のもと、たくさんの事例を検証しています。
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最近この研究のことがいつも頭の片隅にあるかんじがします。
例えば、「新たな教育環境をつくりたい!」と思ったときに、「新しく革新的な教育方法」を考えることは大変重要なのですが、それに対して資源動員してもらうことも等しく重要です。そう考えたときに自分ができることはなにかということを色々考えてしまうのですよね。
例えば、大学教育については、立教大学の日向野先生が最近書かれた「大学教育アントレプレナーシップ」という本の中に印象的な文章があります。(p.27-28)
BLPはどこにもない独特な教育方法ばかりを採用しているわけではなく、米国の大学や世界のMBAなどで既に使われている手法を学部生向けにアレンジし組み合わせ、カスタマイズしたものという面が強いので、その意味では教育手法やツールを発明したとは言い難い。それよりはむしろ、教員と学生自身の、ピア・リーダーシップ(カリスマ性や権限によらないリーダーシップ)によって徐々に大学の承認を獲得していく過程にこそ特徴があるのではないかと考える。
本文では、この文章のあとに、今回紹介している「イノベーションの理由 – 資源動員の創造的正当化」の議論を紹介し、立教大の実践を「創造的正当化の事例」として捉えることができるのはないかということが書かれています。
この議論は教育の問題を考えるときに重要な視点になると思うのですよね。私はどちらかというと研究として「新たな方法を開発する」ということに近いことをしていますが、開発したものが実際に提供されるためには「資源動員のプロセス」は非常に重要なわけで、そのあたりのことが頭の中をめぐっています。
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ということで、今回はイノベーションにおける資源動員について考えてきました。結局イノベーションを実現するためには、「新しいアイデア」「資源の動員」どちらも必要になってくるので、うまく両輪がかみ合うポイントを考えていきたいですよね。
告知になりますが、今回の内容に関する議論(大学教育の話はしませんが)は、今度研究会をおこない、事例や理論について検討する予定です。興味のある方はぜひご参加くださいませ。
【参加者募集】社内の資源を有効に使ってイノベーションを起こすには?(9/18)
https://docs.google.com/forms/d/1FxeWUzXvBpqNx4V2lfd14xhIyQW3CrWnApjqgc91tVU/viewform
■今回紹介した本
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