先日、日本の物理教育について考えるシンポジウムで以下のワークショップを実施してきました。

シンポジウム「科学をどう教えるのか2」
主催:NPO法人 理科カリキュラムを考える会
共催:東海大学教育開発研究所
『科学をどう教えるか』を自分の実践に取り入れるために
木村優里(立教大学)・舘野泰一(東京大学)
シンポジウムの詳細はこちら
http://www.ried.tokai.ac.jp/ried/files/events/entryform20130113/


もちろん僕は物理教育の専門家ではありませんから、なんで君なのよ?と思われるかもしれません。まあ僕的にも初めていく場所だったのでドキドキしました(笑)
今回僕が依頼されたのは、シンポジウムで取り扱った「科学をどう教えるのか」という本の内容について、参加者の方がより内容を深く理解したり、普段の実践を改良したりするきっかけをつくってほしいということでした。つまり、シンポジウムの最後のセッション約1時間半の活動デザインについて依頼をうけたというかんじですね。
さらに、今回題材として扱った「科学を教えるのか」という本は、認知科学の知見をベースに物理教育の教材をつくったという点が特徴的な本です。私は元々学部から認知科学について学んでいたこともあり、その部分の内容的知識はあったため、今回依頼をしていただきました。

1時間半という短い中で何をやろうかなと思ったのですが、今回はこの本の「理論部分」にあたるところについて、理解のきっかけをつくってもらうことを目的にしてみました。この本は認知科学の知見をもとに教材を作っているのですが、認知科学について慣れ親しんでいない人にとっては、実は2章とか3章を読むのは大変だという話を聞いたんですよね(笑)
そこで、今回は理論部分のコアである「デザインのための5つの原理」という部分を題材にしてみました。
 1.構成主義の原理
 2.文脈の原理
 3.変容の原理
 4.個別性の原理
 5.社会的学習の原理

原理だけみてもけっこう難しそうですよね(笑)今回はこれを学ぶ上で、ジグソーメソッドという方法をベースにして活動を考えてみました。
ジグソーメソッドについてすごく簡単に説明すると「全員が同じ教材で学ぶ」のではなく、「全員がバラバラの教材を使って、教えることによって学ぶこと」を目的にしている方法なんです。(ジグソーパズルのように、教材をバラバラにして集めるイメージ)
さきほど紹介した5つの原理を例にすると、普通なら「全員に5つの原理に関する資料」を配りますよね。そうではなくて、「あなたは1つ目の構成主義の原理ね」ということで、バラバラに資料を配るのです。例えば5人グループだとすると、必ず全員が違う資料を持っているということになります。
この方法を使うと、「人に教えるために資料を読み込む」とか「教えることを通じて理解を深める」ということが期待できるというわけです。

今回はこの方法を使うことで以下の3つの点を期待していました。1つ目は、本に書かれれている理論部分を少しでも自分なりに理解していただくきっかになればよいなということです。2つ目は、参加者の方々は、みなさん日々物理教育の実践をされている方ですから、知識の理解だけではなく、配られた資料に関する「普段の実践に関する語り」をしていただきたいと思いました。3つ目は、ジグソーメソッド自体も、認知科学的な要素がたくさん含まれているため、自ら体験してもらうことで理解のきっかけになればと思いました。
実際にやってみると、みなさん短い時間ながらも、それぞれの原理について「こういうことじゃないか」、「普段の実践で起きているこういう現象と似ている」「私はこれにはまらないように、こんな工夫をしている」という会話がなされていました。

今回の実践をやってみて思ったことは、すでに現場での実践経験が豊富な方を対象にしたジグソーメソッドは普段のものとまたちょっと異なるなということでした。というのも、みなさん実践経験が豊富なため、与えられた原理に関するストーリーなどをたくさん持っているんですよね。なので、単純に「理論の理解」が目的になるだけでなく、「普段の実践について語るための素材」として機能しているなという印象を受けました。これは僕にとってはあらたな発見で、とても面白かったです。
シンポジウム終了後の飲み会などでも、みなさんお話しをしながら「これは文脈の原理みたいな話だね(笑)」という具合に、冗談の中に、さっそくさきほどの原理について言及してくださっているのが印象的でした。自分の言葉として語っておられる姿が印象に残りました。

今回の企画は、木村優里さん(立教大学)と一緒に実施したのですが、一番苦労したのはジグソーメソッドで使う「教材作り」でした。5つの原理について、短い時間で理解してもらうためには、その教材をわかりやすく作り込む必要があります。実際、ジグソーメソッドは始まってしまったらそれほど介入する余地がないので、事前に準備出来るのは教材部分くらいなんですよね。
本番までに「木村さんが書いて、僕がコメントする」ということを相当の回数繰り返しました。木村さんの資料作りに関するねばりは本当に素晴らしかったです(笑)

ということで、僕にとってははじめての場所だったのですが、参加者のみなさんが非常に熱く、僕自身も刺激をいただく非常によい機会になりました。今回のような機会をいただき、滝川洋二先生はじめ、主催者のみなさまに本当に感謝いたします。
今後も機会があれば、いろいろな場所で、シンポジウムの活動デザインなどについてご協力できればと思っています。ご興味のある方はお声がけいただけますと幸いです。
■シンポジウムで題材になった本

■関連するリンク
ジグソーメソッドの説明はこちらをどうぞ。
学部4年生の頃に書いたメルマガ記事です。なつかしい(笑)
http://www.beatiii.jp/beating/018.html