「教育実践と研究がうまく結びつくといいよね」ということについて否定的という人はあんまりいないと思うのですが「じゃあ具体的にどういう状態が結びつている状態で、どうしたらそうできるの?」ということについて、ぱっと答えを出すことが難しいのではないかと思います。

そしてこの問題はいまにはじまったことではなく、昔から議論されてきたことともいえると思います。例えば、1995年に書かれた「学びへの誘い」(東京大学出版会)の中にもこんな一節がでてきます。

最近、心理学会や教育心理学会で、実験室で刺激条件を統制した実験からデータ収集して仮説を検証するという「自然科学」パラダイムから脱して、もっと現場に密着した研究をしていかねばならないという声がさかんに聞かれるようになった

その理由について、研究者側、実践者側二つの理由がまとめられています。

【研究者側】実験室で得られた「心理学的知見」なるものが現実の生活やなんらかの社会的・文化的実践活動で「役立つ」ことがあまりにとぼしいことへのいらだちが、研究者たちにも募ってきたこと

【実践者側】現場の実践者たちからの不満(というより、むしろ「あきらめ」)の声が、やっと研究者たちの耳に聞こえはじめてきた、ということがあろう

私も院生の頃からずっとこの問題について考えてきています。あるときはこの問題を考えすぎて「本当に研究の意味があるのかな」と思い、この道をあきらめようと思ったこともあるほどです笑

いまも悩みはあるのですが、最近は以前に比べてなんとなく自分なりの折り合いがついてきたようなかんじがしています。その折り合いのポイントについては、うまく言語化できずにいたのですが、最近少しずつそのあたりが見えてきそうかなというかんじがしてきました。

そのきっかけは昨年度から取り組んでいた書籍「アクティブトランジション」のあとがきを書いたことがきっかけでした。

今回発売される書籍は、少し奇妙なつくりになっておりまして(笑)、いわゆる研究書でも、いわゆるワークショップのレシピ本でもありません。両方を一冊にまとめ、それらを架橋しようとがんばってみた書籍です。

なんでこういう書籍を作ってみようと思ったのかなと思うと、やはり自分なりの「実践」と「研究」の架橋へのチャレンジだったのかなと思っています。

「研究者なので研究(調査)はしっかりする。でも、その成果を実践先にお渡しするだけではない。自分たちも実践をする。ただし、私たちは実践者ではなく、研究者でもある。」

なんだか何を言っているかわからないような文章ですね笑 ただ、こういうモヤモヤっとしたなんともいえないものが自分の研究者としてのスタイルなのかなと少し見えてきたかんじがしたのでした。それは私自身が大学院を学際情報学府というところで過ごしたこととも関係するかもしれません。

教育実践と研究の架橋のさせ方というのは、ひとつの答えがあるわけではなく、その人自身のスタイルを反映したものになるのかなと最近あらためて思っています。

そうした自分なりのスタイルをあらためて意識して、とりあえず目の前の10年くらいを目安にがんばっていこうかなと最近考えています。

【関連する書籍】

研究者としてのあり方の話は、冒頭の中原章にも記述されています。私自身の実践と研究の関係についての思いはあとがきにまとめました。

アクティブトランジション 働くためのウォーミングアップ
舘野 泰一 中原 淳 木村 充 浜屋 祐子 吉村 春美 高崎 美佐 田中 聡 保田 江美
三省堂
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冒頭紹介した書籍はこちらです。

学びへの誘い (シリーズ 学びと文化 1)
東京大学出版会
売り上げランキング: 365,686

【関連する情報】

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